フォトエッセイ 『海がもっと好きになる 〜うみまーる流 水中写真術〜』 連載中・・・ 

Vo.4 気持ちのいいダイビング

浮遊感を楽しもう。


みなさんがダイビングで、気持ちがいいと思うのは、
どんな時ですか。
真夏の太陽の下でエントリーして、
ほてった体を冷やす時や、
吸い込まれそうな海の青を目にした時、
はたまた、イソギンチャクの触手に包まれて
気持ち良さそうにしているクマノミを見て、
こちらまでここちよく感じることもありますよね。
いろんな気持ちよさがある中で、
ダイビング独自の気持ちよさって、
浮遊感じゃないかなと思うのです。

スノーケリングのように
水面にぷかぷか浮いているのとは違う、
水中で浮きも沈みもしない浮遊感。
ダイビング用語で
「中性浮力」と呼ばれている状態です。

海にやさしい潜り方。



うみまーるの2人は、いつも中性浮力で
撮影しています。
強い流れの中で、
岩につかまって大物を待つようなダイビングでは、
もちろん岩につかまりますが、
穏やかな海でのダイビングでは、
とても小さな生きものを撮る時でも、
中性浮力のまま撮影しています。

今回、その撮影シーンをムービーで撮ってみました。
BCDの給排気で大まかな浮力調整をし、
あとは体が沈みそうなら息を吸い、
浮きそうなら息を吐く(肺のトリミング)
というのを基本に、同じ水深を保っています。
また近づく時は普通のフィンキックですが、
近づきすぎたら、足の甲で水を前にかき、
ストップしたり、バックしたりします。
平泳ぎの足の動きを反対にする感じです。

もちろん、いきなり、中性浮力で撮りましょう
と言いたいわけではありません。
うみまーるの2人も、
すぐにこんな風にできたわけではないです。
でも、「中性浮力で撮影することもできるんだ」
ということを
頭の片隅にでも入れておいてほしいのです。
「中性浮力で撮影なんてムリ」と思い込むより、
「いつか中性浮力で撮影できるようになるといいなぁ」
と思っている方が、
ダイビングも上達すると思いませんか。

それに、どこにも手や足をつかないダイビングは、
海にやさしい潜り方です。
海底には、一見気づかないような
小さな小さな生きものたちも暮らしています。
不用意に着底すると、
彼らを傷つけてしまうかもしれないのです。


中性浮力がうまくできない一番の原因は、
ウェイトを多く付けすぎている(オーバーウェイト)
でしょう。
BCDに空気を入れても沈みぎみだったり、
海底で砂を巻き上げてしまうことが多かったりしたら、
オーバーウェイトの可能性があります。
もしそうなら、
次に潜る時は、ウェイトを1個はずしてみましょう。
その時、インストラクターさんやガイドさんに、
「今までより、ウェイトを1キロ軽くして潜ります」
と伝えておけば、安心です。

歌を唄えば、体も心も軽く。



ウェイトを軽くして潜ったら、当然、体も軽くなります。
「沈まないのって、楽だなぁ」と思うはずです。
一通りダイビングを楽しんで、
エキジット前の安全停止になった時、
もしかしたら、体が浮きそうになるかもしれません。
というのも、空気にも重さがあるので、
空気が少なくなったタンクは、
1~2キロほど軽くなるのです。
BCDの空気を抜いても、体が浮きぎみだったら、
歌を唄ってみましょう。
もちろん、しっかり声を出さなくてもOKです。
レギュレーターをくわえたまま、
唄っているように息を吐くのです。
「うーみーはー ひろいーなー おおきーいーなー」
と唄ってみれば、
浮きぎみだった体が中性浮力に戻るはずです。

Kindonは学生の時、
厳しい練習で知られる琉球大学ダイビングクラブに
所属していました。
そこでは、BCDを使わず、ハーネスで潜っていました。
ハーネスというのは、
タンクを取り付けて背負えるだけのもので、
空気で膨らませる部分はなく、
浮力調節はできないのです。
ハーネスで潜る時は、
最大水深で中性浮力になるように、
ウェイトを軽めに調整するので、
安全停止の時は、どうしても浮きそうになります。
そんな時は、息を吐きぎみにして、肺の空気を少なくし、
体が沈むようにするのですが、
意識して吐きぎみにしようとすると、
なんだか息苦しい気がして、
ついつい息を吸ってしまいます。
すると、ますます浮きそうになってしまって、
浮いていかないようにするために、
逆立ちのような泳ぎ方になり、息が上がってしまう
という悪循環に陥ってしまうのでした。
そんな時に思いついたのが、歌を唄うという方法。
唄っている時って、
無意識で吐きぎみの呼吸をしているので、
体が沈むのです。
それに、息苦しいどころか、
ますます楽しい気分になります。
体が浮きそうになったら、一度試してみてください。


一本一本の経験が、一枚一枚の葉っぱで、
出会いが花、そこに実るのが写真だとすれば、
それらを支える枝は、ダイビング技術だと思います。
ダイビングは上手くなればなるほど、
気持ちのいいレジャーです。
上手くなれば、それだけ、海にもやさしくなれるのです。
そして、そのやさしさは、
写真にもきっと表れると思うのです。



次は・・・
Vo.5(7月13日予定)































うみまーるの水中撮影スタイル。
どこにも手も足もつかず中性浮力を保って撮影する。
微妙な浮力調整は肺のトリミングで。
位置の調整は、フィンさばきで前後左右に。
サンゴに住むカンザシヤドカリを撮影中。
(座間味島)

SEA & SEA DX-2G 動画モード











































中性浮力で撮影したカンザシヤドカリ。
水になれば、目線を同じ高さに持って来やすい。
(座間味島)

SEA & SEA DX-2G





ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky

ありのままの自然の中でも、ひときわ美しい時間があります。
沖縄の海と空、太陽と風、自然が織りなす時の流れ。そこではぐくまれる豊かな命。輝くようなその瞬間を綴りました。あなたにつながる空の向こうには、かならず海が広がっています。いつもあなたに、ちゅら海からの風が届きますように。

書 名 :ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky
著 者 :うみまーる‘井上慎也+髙松飛鳥’
発行日 :2010年3月16日
発行所 :求龍堂
判 型 :200×220mm・ソフトカバー・96頁オールカラー
価 格 :2,100円(税込)

「ちゅら」とは、沖縄の言葉で「清らか」の意味です。ただ見た目にきれいなだけでなく、内面性の美しさも表しています。「海が健全で、本当の意味でいつまでも美しくあってほしい」。そんな願いを込めて、タイトルをつけました。