フォトエッセイ 『海がもっと好きになる 〜うみまーる流 水中写真術〜』 連載中・・・ 

Vo.2 出会いは「花」

イメージは持たずに。


「これから、どんな出会いがあるかな?」
と潜る前はいつもワクワクしますよね。
目当ての魚が決まっていて、
その魚に会うのが一番の楽しみ、ということもあれば、
地形を楽しみたいとか、
大物が見たいということもあるし、
ただ、のんびり気持ちよくという時もあるでしょう。
「こんな写真を撮りたい」というイメージを持って
潜ることもあるかもしれません。
でも、自分たちはできるだけ、
撮りたいイメージは持たないで潜るようにしています。

素直に出会う。


イメージを持って潜ると、
ついつい、そのイメージに合うようなシーンばかりを
探してしまいます。
そうすると、
目の前の素敵なシーンに気付かないかもしれません。
思ってもみないような素晴らしい出会いが
あるかもしれないのに、
頭で考えたイメージばかりを追い求めていたら、
もったいないですよね。
だから、できるだけ素直な気持ちで潜りたいと
うみまーるはいつも思っています。

マレーシアのシパダン島で
夜に潜っている時のことでした。
この島のナイトダイビングは、
カンムリブダイの寝顔が見物です。
最初は水中ライトを照らしながら、
岩のくぼみで寝ているカンムリブダイを
探していました。
でも、ふと見ると、自分らの体のまわりで、
たくさんの夜光虫が光っているのに気づきました。
フィンキックをするたびにキラキラと瞬いています。

「きれいだなー、もっとよく見たい」と思い、
2人ともライトを消して泳いでいました。
ボコボコと吐いたエアーも、
星の瞬きのように、小さくキラキラと光りながら
水面へと上っていきます。
目が慣れてくると、
岩のシルエットなども見えてきて、
視界が広がって行きました。

と、どうでしょう。
岩を越えた30mほど先に、
クリスマスツリーのように鮮明な光の集まりが
チカチカと点滅しながら、うごめいています。
ゆっくりと近づき、写真を撮りましたが、
ストロボを焚くとパッといなくなってしまいます。

しばらく待って、そっとライトをつけると、
その光の先に映し出されたのは、
ヒカリキンメダイの姿でした。
ライトをつけていると岩陰に隠れて光りません。
暗いままノーストロボで撮影してみると、
幻想的な青白い光の舞いが
フィルムに映し出されていました。
その時の出会いを素直に受け入れると、
それがまた思わぬ出会いを招いてくれたように
思います。

でも、素直な気持ちで潜るって、
意外と難しいです。
ダイビングの経験を積めば積むほど、
始めたばかりの頃の新鮮な気持ちは薄れて、
経験からくる思い込みにとらわれてしまうかも
しれません。
そんな時はどうしたらいいでしょう?

頭で考えないで、
心で感じるようにすればいいのかなと思います。
「撮るぞ」と思ってカメラを構えると、
プイっと魚が逃げてしまいますよね。
「撮気は殺気」とも言います。
撮りたいという気持ちが強いと
かえって魚が警戒してしまうのでしょう。

「かわいいな」とか「きれいだな」などの
気持ちを大切に、
身構えずに写真を撮ってみましょう。
少しずつ、魚も気を許してくれるはずです。

ダイビングは上手くなればなるほど、
感動は増えていくものです。
だって、初心者の頃は、
潜るだけで精一杯だったのが、
上手くなるにつれ、気持ちに余裕ができて、
今まで気付かなかったような小さなことでも
心動かされるようになるんですから。


感動した気持ちを撮ろう。



感動したものを素直に
写真に撮ってみましょう。
そんな風に写真を撮っている時は、きっと
「楽しいな」とか「幸せだな」、
海に「ありがとう」という気持ちが
オーラのように出ているのだと思います。
そして、その気持ちに、
海はときどき応えてくれるようです。

ある暑い夏の日、浅い海で潜っていました。
水面を見上げると、
陽射しが美しい光の筋になって、
海の中にふりそそいでいました。
「きれいだな。気持ちいいな」と思いながら、
カメラを構えると、
ふいに小魚の群れが、
カメラの前を横切ったのです。
とっさに1枚だけシャッターを切りました。
そこには、キラキラと輝く
キビナゴの子どもたちが写っていて、
今を生きる喜びを体現しているようでした。
その時の自分の気持ちに
海が応えてくれたように感じたのです。

感動できる出会いこそ、
ダイビングの花だなと思います。
ダイビング中にいっぱい
いろんな花が咲くといいですね。






























みんなで集まって、
青白い光を点滅させている
ヒカリキンメダイ。
(マレーシア・シパダン島)


NIKONOS-Ⅴ + UW15mm
富士フイルムVelvia100













































太陽の光に透き通る
まだ小さなキビナゴの子どもたちです。
(座間味島)


Nikon F4 +16mmフィッシュアイレンズ
+NEXUS ハウジング
富士フイルムVelvia100





ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky

ありのままの自然の中でも、ひときわ美しい時間があります。
沖縄の海と空、太陽と風、自然が織りなす時の流れ。そこではぐくまれる豊かな命。輝くようなその瞬間を綴りました。あなたにつながる空の向こうには、かならず海が広がっています。いつもあなたに、ちゅら海からの風が届きますように。

書 名 :ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky
著 者 :うみまーる‘井上慎也+髙松飛鳥’
発行日 :2010年3月16日
発行所 :求龍堂
判 型 :200×220mm・ソフトカバー・96頁オールカラー
価 格 :2,100円(税込)

「ちゅら」とは、沖縄の言葉で「清らか」の意味です。ただ見た目にきれいなだけでなく、内面性の美しさも表しています。「海が健全で、本当の意味でいつまでも美しくあってほしい」。そんな願いを込めて、タイトルをつけました。