フォトエッセイ 『海がもっと好きになる 〜うみまーる流 水中写真術〜』 連載中・・・ 

Vo.3 一本一本を
大切に潜りましょう

その一本を楽しむ。


ダイビングは自然が相手のレジャーなので、
天気の悪い日もあれば、
会いたかった生きものに出会えない時もありますよね。
がっかりすることもあるかもしれません。
そんな時でも、
かけがえのないその一本のダイビングを、
しっかりと楽しんでほしいなと思うのです。
例えば、降りしきる雨の中、
ボートの上で凍えながらポイントに着いて、
「こんな日に潜るのイヤだなぁ」と
思っていたとしましょう。
でも、エントリーしてみたら、
海があたたかくて、
「あれっ?」と思った経験はないですか。
海って、雨が降っている日には、
あたたかく感じるものです。
そんな時に、
「今まで知らなかった海の一面を
知ることができて、良かったな」
と思うことができれば、
どんな時でも、ダイビングを
楽しむことができるのではないでしょうか。


カクレクマノミはいつも、イソギンチャクの触手の間を、
あっちに行ったり、こっちに来たりしながら、
ときどきこちらをキョトンとした表情で見てくれるので、
そんな時がシャッターチャンスです。
でも、ある時、
なかなかこちらを向いてくれない
カクレクマノミと出会いました。
どうも、周りで群れている
スカシテンジクダイが気になるようで、
その動きばかりを見つめています。
顔の表情を撮ろうと、正面へ回りこもうとしても、
スカシテンジクダイが向こう側に移動すれば、
カクレクマノミもそっちを向いてしまいます。
キラキラと輝くスカシテンジクダイが
気になって仕方がないようです。
思うようにいかないなと思いつつも、
夢中になってスカシテンジクダイを目で追う後姿が
なんだかかわいらしくて、
その情景のままシャッターを切ると、
スカシテンジクダイが銀色の光になって写っていました。
きらめくスカシテンジクダイに夢中になっている
カクレクマノミの気持ちが写っているようで、
お気に入りの1枚となりました。
ありのままの自然の状態を大事にしたいなと思います。


大切に潜る。


うみまーるは、一本一本のダイビングを
新鮮な気持ちで、大切に潜りたいと思っています。
自分たちが思う「大切に潜る」とは、
計画や準備をしっかりやること、
次に、ダイビング中は思いっきり楽しむこと、
そして、思い出をログに書いたり、反省したりすること、
こういったことを、ちゃんとすることです。

ガイドさんに案内してもらう場合、
潜るコースや見られる生きもの、
最大水深、潜水時間などの計画は、
潜る前にブリーフィングしてくれますよね。
それを聞いて、
水中での自分をイメージしてみましょう。
その時に、不安なことが思い浮かんだら、
潜る前にガイドさんに相談しておくと安心です。
例えば、「耳抜きがうまくいかないかも」と相談したら、
早めにエントリーして、
ゆっくり耳抜きできるように、
調整してくれるかもしれません。

でも、しっかり準備をしたつもりでも、
突然トラブルが起きることだってあるかもしれません。
以前、水中で
ストロボがつかなくなったことがありました。
10年以上も使っていたストロボなので、
ついに寿命がきてしまったようなのです。
仕方がないので、ストロボは使わずに撮影しました。
ソフトコーラルに住む
イシガキカエルウオの子どもを見つけて、
そっと撮ってみました。
ストロボが光らないから、
撮影していて、とても穏やかな感じです。
出来上がった写真を見ると、
青く静かな海の片隅にいる
イシガキカエルウオのあどけない表情が写っていました。
予定通りにいかない時こそ、
思ってもみない成果を得ることができるんだなと、
うれしくなりました。


経験を育てよう。


アフターダイブのログ付けでは、
楽しかったことをいっぱい書きましょう。
生きものの名前が覚えたかったら、
見た生きものを思い出しながら、
自分で、図鑑を調べましょう。
いつもガイドさんに教えてもらっていたら、
なかなか覚えられませんよ。
水中で方向音痴な人は、
水中のコースや地形を思い出しながら描くといいです。
コースや地形を思い出すことが、
方向感覚を磨くことになるのです。
また、失敗を思い出して、
次回、同じ失敗をしないように
考えておくことも大事です。
失敗なんて、思い出したくないかもしれないですが、
これをしっかりしておくと、
ダイビングがどんどん上手くなります。
そうすると、自分自身に余裕が出てきて、
突然の出会いにも慌てずじっくり楽しめたり、
自分でいろんなことが発見できたりして、
撮影のチャンスも広がっていきます。


一本一本のダイビングが、
花や実に栄養を送る一枚一枚の葉っぱだと思います。
大切に潜った一本には、
いろんな思い出がつまっていて、
それはきっと、写真にも表れてくると思うのです。
































カクレクマノミが夢中になって見つめる先に
銀色の光が写っていました。
(阿嘉島)


NIKON F90 + 105mmマイクロレンズ
    + NEXUS ハウジング
富士フイルムVelvia100














































ストロボがつかなくなり、自然光で撮った1枚。
海中らしい青一色の世界になりました。
(水納島)


Nikon F90 +105mmマイクロレンズ
+NEXUS ハウジング
富士フイルムVelvia100







ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky

ありのままの自然の中でも、ひときわ美しい時間があります。
沖縄の海と空、太陽と風、自然が織りなす時の流れ。そこではぐくまれる豊かな命。輝くようなその瞬間を綴りました。あなたにつながる空の向こうには、かならず海が広がっています。いつもあなたに、ちゅら海からの風が届きますように。

書 名 :ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky
著 者 :うみまーる‘井上慎也+髙松飛鳥’
発行日 :2010年3月16日
発行所 :求龍堂
判 型 :200×220mm・ソフトカバー・96頁オールカラー
価 格 :2,100円(税込)

「ちゅら」とは、沖縄の言葉で「清らか」の意味です。ただ見た目にきれいなだけでなく、内面性の美しさも表しています。「海が健全で、本当の意味でいつまでも美しくあってほしい」。そんな願いを込めて、タイトルをつけました。