フォトエッセイ 『海がもっと好きになる 〜うみまーる流 水中写真術〜』 連載中・・・ 

Vo.1 写真は「実」

出会いや感動を実らせる。



「うみまーるにとって水中写真とは?」
と問われて、
う~ん、なんだろう?と、
あれこれ考えをめぐらせて、
思いついたのが、
「写真は、実かな」ということでした。

海に潜っているときの気持ちよさや、
いろんな生きものに出会えた楽しさ、
美しい風景のまっただ中にいるという感動などを
写真という形にして、
海からもらってくることができるからです。

かわいい魚に出会ったら、
まずは遠くからそっと観察してみましょう。
いきなりカメラを構えたら、
びっくりして逃げてしまうかもしれません。
そしたら、心の記憶にも、
写真にも残せないことになってしまいます。
まずは、せっかくの出会いを
しっかり心に刻みましょう。

まずは心に刻もう。



「水中写真術」というタイトルなのに、
「写真を撮らず、まずは心に刻もう」なんて、
変な話だなと思われるかもしれません。
でも、そうなのです。
まずはしっかり心で感じて、
心に栄養がいきわたらないと、
いい写真は撮れないと思うのです。

それに、本当に大切な一瞬は、
写真に撮らず、心に刻むものだと思います。
例えば、生まれたばかりの赤ちゃんが、
初めて笑いかけてくれたとしましょう。
その笑顔をファインダー越しに見ている母親は
いないですよね。
海の中でも同じです。
アシカがキスしようと近づいてきたときは、
カメラなんか構えず、
素直にキスしてもらう方が幸せです。
そして、その方が結局は、
いい写真も撮れるように思うのです。

アシカはとても遊び好きです。
一緒に遊べば遊ぶほど、喜んで離れなくなります。
「ねぇねぇ、次はなにして遊ぶ?」
のぞきこんでくるその笑顔が、
どんどんいとおしくなってきます。
アシカって、いろんな表情をするんだな
こんなしぐさもするのか・・
心がたっぷりと満たされて、
いろんなことが見えてきます。

いっぱい遊んで仲良くなったら、
心に残った表情を、ねらって撮ってみます。
どんな時にそんな表情をするのか、
もう、分かっています。
ぐるぐる一緒に回って、
ちょっと逃げるように海底に潜って振り向くと、
アシカはきらきらと笑いながら、
あとを追いかけてくるのです。

この笑顔の「実」がなりますように。
心をこめてしっかりとシャッターを切ります。

心にたっぷり栄養を。



次に海に潜るときは、
いつもより少し心をこめて、
まわりを見回してみましょう。
そっと見守れば、
魚やカメたちは素敵な日常のドラマを見せてくれます。
イルカやアシカたちは、
一緒に遊びたくて様子をうかがっているかもしれません。

「おじゃまします」の気持ちを忘れずに、
相手の気持ちになって振る舞えば、
きっと受け入れてもらえるはずです。
そうやって、心にたっぷり栄養をたくわえましょう。
それが、いい写真として実をむすぶと思います。










仲良くなったアシカの子どもが、
「あそぼうよ」と追いかけてきました。
見上げると、まぶしい笑顔。
雲の間から顔を出す太陽のようです。
(西オーストラリア)

Nikon F100 +16mmフィッシュアイレンズ

+SEA & SEA ハウジング
富士フイルムVelvia100















A-Suに急接近したアシカの男の子。
この後、おでこにキスしました。
(西オーストラリア)

NIKONOS-V + UW15mm
富士フイルムVelvia100




ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky

ありのままの自然の中でも、ひときわ美しい時間があります。
沖縄の海と空、太陽と風、自然が織りなす時の流れ。そこではぐくまれる豊かな命。輝くようなその瞬間を綴りました。あなたにつながる空の向こうには、かならず海が広がっています。いつもあなたに、ちゅら海からの風が届きますように。

書 名 :ちゅら海からの風 Okinawa, where the sea meets the sky
著 者 :うみまーる‘井上慎也+髙松飛鳥’
発行日 :2010年3月16日
発行所 :求龍堂
判 型 :200×220mm・ソフトカバー・96頁オールカラー
価 格 :2,100円(税込)

「ちゅら」とは、沖縄の言葉で「清らか」の意味です。ただ見た目にきれいなだけでなく、内面性の美しさも表しています。「海が健全で、本当の意味でいつまでも美しくあってほしい」。そんな願いを込めて、タイトルをつけました。